定量評価とは?定性評価との違いとポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

人材育成や人事配置を行ううえでは、正確性の高い人事評価が欠かせません。評価の手法には大きく分けて「定量評価」と「定性評価」の2種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。

定量評価とは成果を数値化し、客観的に評価する方法のことを指し、人事評価においても評価基準の定量化は重要な鍵となります。今回は定性評価との違いや定量評価の進め方、注意点などを詳しく見ていきましょう。

定量評価とは


「定量評価」とは、具体的にどのような評価手法を指すのでしょうか。ここでは、定量評価の基本的な意味や、「定性評価」との違いについて解説します。

定量評価の意味

定量評価とは結果を数値化し、客観的に評価する方法のことです。人事評価においては、たとえば売上や案件の獲得数、費用の削減率のように、数値で表現できる項目を用いて評価することを指します。

定量評価では誰が見ても基準が明らかであるため、達成できたかどうかが判断しやすく、従業員も納得しやすいのが特徴です。そのため、人事評価の客観性や公平性を高めるためには、定量評価が行える範囲を広げることも重要なテーマとなります。

定性評価との違い

一方、定性評価とは、勤務態度やコミュニケーション能力のように数値や数量で表せないものを評価する方法のことです。人材が持つ強みや価値には、短期的な数値で測れない項目も数多くあるため、定性的な側面に対する評価も欠かせません。

そのため、評価においてはどちらか一方の手法のみではなく、定量評価と定性評価の両方を組み合わせて用いることが大切です。

定量評価を実施するメリット


人事評価においては、定量評価の特性をきちんと理解して用いることが重要となります。ここではまず、定量評価のメリットについて見ていきましょう。

客観的評価を行える

数値に基づいて判断するため、評価のプロセスが簡潔であり、結果も明確になりやすいのが定量評価の大きなメリットです。数値で示された結果は誰が見ても変動しない事実であるため、評価者の主観が入り込みにくく、客観的かつ公平な評価が行えるのです。

また、評価に際して目を向けなければならないポイントが絞り込まれるため、評価者の負担を軽減できるのも利点といえます。

従業員のモチベーションにつながりやすい

評価基準がきちんと数値化されていれば、達成率や社内順位のように明確な目標を設定しやすくなるため、社内での健全な競争を促せます。たとえば、「営業成績で上位を目指す」「残業時間を〇時間短縮する」といった明確な数値目標を掲げることで、個人のモチベーションや組織の団結力の向上が期待できるでしょう。

従業員のモチベーションを向上させる方法については、以下の記事でも詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法 』)

生産性の向上を期待できる

定量評価を給与や賞与に反映させれば、従業員にとっては努力が目に見えて評価される環境となります。その結果、個々の従業員のモチベーションはますます向上していき、組織全体の生産性向上も期待できるようになるでしょう。

また、定量評価は成功と失敗を簡潔に判断できるため、施策の効果を測るのにも役立ちます。うまくいっている組織や個人に共通するポイントを探れば、再現性の高いデータが得られるため、人材育成に活用できるヒントを見つけることも可能です。

定量評価の注意点


定量評価は便利で有益性の高い評価手法であるものの、万能というわけではありません。導入に適さない場面もあるため、注意点も正しく理解しておくことが大切です。

プロセスが評価されない

定量評価は数字のみを評価するため、数値として表れない目標達成までのプロセスや努力は考慮されないのが特徴です。人事評価で用いる場合は、本人の適性や将来性、失敗の受け止め方などが反映されないため、評価結果に偏りが生まれてしまうのが難点です。

プロセスが軽視されれば、不正を招く原因になったり、長期での取り組みが正しく評価されなくなったりする可能性もあります。また、チームや組織の判定に定量評価を用いる場合は、結果を追い求めるあまりに過剰なノルマ主義に陥ってしまうリスクもあります。

チーム目標を達成するために個人の意欲や精神衛生を犠牲にしたり、個性を抑圧したりすることがあれば、長期的に見ると生産性を低下させる要因になってしまうでしょう。

職種によっては公平性を保ちにくい

定量評価は営業職や製造業のように、結果を数値化しやすい業種・職種とは相性のよい手法といえます。一方、事務・技術職、介護職などの職種では、数値化できる項目が少ないため、公平な評価を行うのが難しい面もあります。

そのため、定性評価との違いを十分に踏まえたうえで、状況に応じた評価方法を検討することが大切です。

社内のコミュニケーションに支障が出る

定量評価に重きを置きすぎると、社内のコミュニケーションに悪影響を及ぼす可能性があります。目に見える数値目標ばかりを追い求めるようになれば、個々の従業員は自分の成果のみにこだわるようになり、他者とのつながりを軽視してしまう可能性もあるのです。

たとえば、人材教育に力を入れる部署や個人は、ノルマの達成ばかりを追い求める場合と比べて、どうしても短期的な成果が見劣りしてしまうこともあるでしょう。こうした状況で定量評価のみに偏重すれば、人材育成が軽視され、長期的な生産性が低下してしまう恐れもあります。

個々の取り組みを正しく評価するためには、こうした定量評価の弱点もきちんと理解しておくことが重要です。

定量評価の具体的な手法


定量評価を行う手順は次のとおりです。

定量評価の手順
1.定量目標を設定する
2.目標の達成度をフィードバックする
3.効果測定を行って改善する

ここでは、それぞれのプロセスについて見ていきましょう。

定量目標を設定する

定量評価では、どのように目標を設定するかが重要なポイントとなります。評価項目は具体的に測定できるものであるとともに、十分に実現可能なものでなければなりません。

また、目標を達成することで、きちんと企業に利益をもたらすかどうかも重要な視点となります。これらの観点を包括的に盛り込むには、「SMARTの法則」を用いるのが有効です。

SMARTの法則
S:Specific(具体的な)
M:Measurable(測定可能な)
A:Achievable(実現可能な)
R:Relevant(企業の目標と関連した)
T:Time-bound(期限が決まった)

SMARTの法則を用いて目標を検討すれば、定量評価の基準を判断しやすくなります。設定した評価基準に具体性があるか、企業の目標と関連しているか、期限が明確に定まっているかなどを細かくチェックしながら定量目標を設定しましょう。

目標の達成度をフィードバックする

定量評価は数値目標と実績を照らし合わせればすぐに良し悪しが分かるので、評価を下すことそのものは決して難しくありません。しかし、単に機械的な評価をするだけでは、その後の成長や改善につなげることはできません。

評価を組織としての成長につなげるには、達成度をきちんとフィードバックし、伸ばすべき点や問題点を明らかにしていく作業が必要です。企業としての成長を目指すには、成果を追求することももちろん重要な取り組みといえます。

しかし、人事の分野においては、目標の数値を達成するための努力や挑戦といったポテンシャルにも目を向けることが重要な仕事です。目標の数値に届かなかった場合でも、安直にマイナス評価を下すのではなく、取り組みの姿勢について定性的な評価も取り入れるとよいでしょう。

そのうえで、チャレンジがうまくいかなかった原因を探し、フィードバックを通じて改善点を伝えると効果的です。フィードバックの方法やポイントについては、以下の記事で詳しく触れられているので参考にしてみてください。

(参考:『ビジネスにおけるフィードバックとは?効果的な手法とポイントを紹介 』)

効果測定を行って改善する

適した定量目標は、企業が置かれている環境や市場の状況、個人や組織の成長段階に応じても異なります。そのため、定期的に目標を見直し、環境の変化や現在の能力に合わせて細かく調整することが大切です。

また、設定した目標が適切であるかどうかを確かめるために、効果測定を行って検証する必要もあります。人材の成長や環境変化のスピードを踏まえると、少なくとも3カ月に1度程度は目標の見直しを図るのが望ましいといえます。

定量評価の指標に関するポイント


定量評価では、どの分野における量を重視するかで評価の軸が異なります。たとえば、売上や案件獲得数を指標にすれば、営業成績の向上や受注の拡大に重きを置いた評価ということになります。

一方、クレーム削減率のような数値を指標にすれば、商品・サービスの品質の安定性を追求した評価といえるでしょう。このように、数値目標の設定は人事評価のあり方を左右する重要なポイントといえます。

また、一見すると数値化が難しいような項目でも、工夫次第では定量評価を行うことが可能な場合もあります。ここでは、定量評価における指標の考え方について見ていきましょう。

回数や時間に関する指標

回数や時間に関する数値は、定量評価における代表的な指標です。たとえば、研修を受けた回数を指標にすれば、仕事に対する意欲や姿勢を客観的に判断することができます。

また、同一の作業にどれだけの時間がかかったのかを指標にすれば、個人の習熟度や生産性を測ることも可能です。そのため、回数や時間に関する指標は、経験の浅い従業員や、人事・総務といった間接業務に携わる従業員の成果を定量評価したいときに有効といえるでしょう。

行動に関する指標

管理者の評価は、現場で動く従業員と比べて定量化が難しいのが特徴です。しかし、行動に関する指標を用いれば、ある程度まで定量評価を取り入れることもできます。

たとえば、研修に参加した部下の割合や資格保有者数などを定量目標にすれば、管理者の取り組みや能力を数字のうえから判断することも可能です。また、部門別の目標を設定し、達成度を測ることでも管理職の能力を評価できます。

サーベイ結果に関する指標

現場に即した指標を取り入れるためには、アンケートや従業員サーベイの結果をもとに定量評価を行うのも有効です。従業員サーベイとは、社内の環境などに関する質問項目を用意しておき、匿名アンケートのような形で意見を集める手法を指します。

たとえば、従業員研修の効果を測るために研修後のアンケートで満足度を集計したり、管理職への満足度を測るために360度評価を取り入れたりするなどの方法です。ただし、これらは「何人が満足していると回答した」「何割が高評価だった」という視点で見れば定量評価ですが、評価者一人ひとりの視点で見れば定性評価になりがちな側面もあります。

定量評価を行うためには、アンケートの質問項目についてもできるだけ定量化を行い、個人の主観が入り込まないように工夫することが大切です。

定量評価をうまく導入するコツ


評価の客観性や公平性を保つうえで有効な定量評価ですが、取り入れ方によってかえって従業員のモチベーションを低下させたり、組織に摩擦を生んだりするリスクもあります。ここでは、定量評価を導入する際に意識したいポイントについて見ていきましょう。

適切な目標を設定する

定量評価を行う際には、従業員のモチベーション向上につながる適切な目標を定めることが重要です。前述したSMARTの法則に沿って、一つずつ目標の精度を確認していくとよいでしょう。

たとえば、売上額の向上を目標とする場合でも、部門によって適切な定量目標は異なります。商品・サービス開発の部門であれば、単に売上額のみを基準としても、個々の従業員について直接的な関連性を実感するのは難しい面もあります。

そのため、所属する組織の状況を踏まえて、現状に合った目標かどうかを見極めることが大切です。

KPIとKGIを組み合わせる

人事における定量評価でも、目標設定の基本である「KPI」(重要業績評価指標)と「KGI」(重要目標達成指標)は重要なポイントとなります。最終到達目標であるKGIをそのまま定量目標に設定しても、個別の従業員やフェーズではどのような数値をクリアすればよいのかがハッキリとつかめません。

一方で、KPIとして具体的な目標を設定したとしても、KGIから外れていれば企業の業績向上には結びつきません。そのため、定量評価においても、KPIを設定してKGI達成までのプロセスを明確化する必要があります。

また、設定した目標についてはその経緯や目的も含めて関係者に共有し、従業員自身の目標として認識できるようにアプローチすることが大切です。

目標管理制度(MBO)を用いる

「目標管理制度(MBO)」とは、1954年にピーター・ドラッカーが提唱した概念であり、組織への貢献と自己成長の2つを達成できる個人目標を設定し、それに合わせて評価する手法です。本来は従業員が自ら目標を決めることで、モチベーションの向上を促すのが目的とされるマネジメント手法でした。

しかし、現代では個人やチームごとに目標を設定し、それに対する達成度を通して評価を決める制度として広く活用されています。MBOを導入すれば、従業員も能動的に自身の目標と向き合えるため、主体的な姿勢を引き出すことが可能です。

また、評価者の負担も軽減されるため、定量評価を実施したいときには有効な方法となり得ます。MBOについては、以下の記事で詳しく解説されているのでそちらも参考にしてみてください。

(参考:『MBO(目標管理制度)とは?目標設定・振り返り方法など成果が出る運用の秘訣を紹介 』)

まとめ

人事評価においては、定性評価と定量評価の違いを意識して評価基準を設定することが大切です。定量評価は数値をもとに評価を行うために、客観性や公平性が保たれやすく、従業員にも納得感が生まれるのが特徴です。

また、明確な目標を提示できるため、従業員の主体性やモチベーションを引き出しやすいのも利点といえます。しかし、プロセスや個人のポテンシャルといった点は定量化が難しく、必ずしも数字だけで判断できるものではありません。

効果的な人事評価制度を確立するためにも、定量評価と定性評価をうまく組み合わせて、自社の状況に合った方法を検討してみましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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