能力主義とは?成果主義との違いとメリット・デメリットを解説

d’s JOURNAL編集部

従業員のモチベーションを維持しながら、長く働き続けてもらうためには、適正な人事評価制度を整えることが大切です。能力主義は、学歴や年齢などにかかわらず、業務に取り組む能力を中心に評価する手法をいいます。

この記事では、成果主義との違いや能力主義を導入するメリット・デメリットなどを解説します。

能力主義とは


自社の人事評価制度のあり方を考えるうえで、能力主義と成果主義との違いを押さえておくことが重要です。それぞれの意味の違いに触れるとともに、能力主義がなぜ注目されるのかを解説します。

能力主義の意味

能力主義とは、顕在化している職務遂行能力だけでなく、潜在的に備えている能力も加味して人事評価を行う考え方をいいます。学歴や年齢などではなく、与えられた職務をきちんと処理し、中長期的な視点で自社に貢献してくれる人材であるかを見極めるための評価制度です。

能力主義においては、職務遂行に必要な知識や技術だけでなく、勤勉さや仕事への向き合い方なども含めて評価が行われます。また、成果だけが重視されるわけではなく、成果に至るまでのプロセスも評価の対象となるケースがあります。

従業員は年功序列、終身雇用を前提とした働き方となるため、能力主義において賃金を下げることは基本的な考えとして「ない」といえるでしょう。同じ企業で長く働き続けることになるため、従業員は自ら成長のために研鑽を重ねて、キャリア形成を描きやすくなります。

成果主義との違い

成果主義は、年齢や学歴に関係なく評価を行うという点では共通する部分もありますが、大きく異なる部分もあります。能力主義は従業員の能力を評価することで、賃金や社内でのポジションを決める方法ですが、成果主義は従業員自身が挙げた成果を重視します。

つまり、成果主義では社内におけるポジションや勤続年数などは評価の対象とならず、実際にどのような成果を出したかや、高いパフォーマンスを挙げることができたかが問われやすいといえるでしょう。逆にいえば、成果主義では一定の期間内に成果を出せば評価される仕組みであるため、仕事の経験が浅くて勤続年数が短い従業員であっても、成果を出せば評価されます。

能力主義と成果主義のどちらがよいかは自社の置かれている状況や、業種などによって異なります。また、事務職や管理職などは定量的な評価がしづらい部分があるため、職種や役職に応じて適した評価制度を見直すことも大切です。

成果主義について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『成果主義の導入で失敗しないためのポイント5つ~メリット・デメリットから解説~ 』)

能力主義が注目される理由

能力主義が注目される理由として、成果主義のみによる人事評価制度では、適正に従業員への評価が行えない部分があるからです。前述のように、職種や役職によって成果主義では評価が難しい場合がありますし、中長期的な人材育成という観点からは成果主義が馴染まないケースもあります。

自社の現状を踏まえたうえで、従業員が納得する評価を行うには能力主義の考えも取り入れていく必要があるでしょう。また、顧客のニーズの変化や競合他社の動向など、外部環境の変化に企業は対応していくことが求められます。

成果主義は短期的な目標を達成するのには向いていますが、長期的な視点で企業が持続的な成長を遂げていくには能力主義の考え方も取り入れることが重要です。能力主義による人事評価は、働く側にとって安心して働き続けられる職場環境の整備につながり、新しい取り組みにもチャレンジしやすい環境を生み出します。

自社の生産性を向上させ、競合他社との競争に勝っていくために能力主義に注目する企業は多いといえるでしょう。自社の今後の事業展開や経営戦略などと照らし合わせて、従業員のモチベーションを高めていく人事評価制度の構築が大切になります。

能力主義を導入するメリット


能力主義を導入するメリットとして、次の点が挙げられます。

能力主義を導入する3つのメリット
・人材の確保につなげられる
・納得感のある評価につなげやすい
・生産性の向上が期待できる

各メリットについて、ポイントを解説します。

人材の確保につなげられる

能力主義を導入することで、人材採用をよりスムーズに進められるでしょう。能力主義においては、実際の職務遂行能力やスキルなどで採用活動を行うのではなく、対象者の潜在能力も含めて判断を行います。

そのため、新たな人材の採用において、ポテンシャルの高い若手の人材を確保することにつながるはずです。すぐに実績を示すのが難しい人材であっても、将来的な活躍が期待できるのであれば、積極的に採用しやすくなるといえるでしょう。

能力主義を取り入れることで、中長期的な視点に立って人材育成を考えていくことが可能となります。特に部署間の人事異動が多い企業などで、効果を発揮しやすいといえます。

納得感のある評価につなげやすい

能力主義であれば、仕事の成果だけが評価の対象となるわけではないため、従業員の納得感を得やすくなるといえます。成果主義であれば、成果を出さなければ評価の対象となりませんが、能力主義であれば成果が出せなかったとしても能力によって評価される部分があります。

成果のみにこだわらないことによって、新規事業や長期的に取り組む事業に従業員が挑戦しやすくなるはずです。すぐに成果を出せなくても、きちんと評価されるという安心感があれば、リスクに対する許容度も高くなるでしょう。

企業が人材戦略を考える際には、今後の事業展開なども含めて検討していく必要があります。従業員がチャレンジしやすい環境を整えることで、新たな事業を推進しやすくなります。

生産性の向上が期待できる

能力主義による人事評価は、自らを高めていきたいと考える従業員にとってもプラスの効果が期待できます。職務に必要な知識や技術、スキルなどを磨くことによって評価されるので、従業員が自ずと自己研鑽に励みやすくなるでしょう。

能力主義は同じ企業で長く働き続けることを前提としているため、モチベーションのアップにもつながり、離職防止にも役立ちます。また、職務に対して意欲の高い従業員が増えることで、結果的に生産性の向上も期待できるでしょう。

勤務態度が良好で、勤勉に取り組む従業員が多くなれば、顧客からの信頼も高まるといえます。職場環境をよりよい方向に導く流れを形づくるために、能力主義の導入は貢献する部分が大きいでしょう。

生産性を向上させる取り組みについて、さらに知識を深めたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか? 』)

能力主義を導入することのデメリット


能力主義を導入することで多くのメリットを得られますが、一方で事前に気をつけておきたいデメリットも存在します。主なデメリットとして、以下の点が挙げられます。

能力主義を導入する3つのデメリット
・長期雇用が前提となる
・評価基準の設定が難しい
・コストが膨らむ可能性がある

各デメリットの注意点を解説します。

長期雇用が前提となる

能力主義を取り入れる場合、まず長期雇用が前提となります。従業員がきちんと成長するまでは実際の貢献度よりも低い賃金を支払い、一人前として育った後に高い賃金を支払うのが一般的な流れです。

短期的に見れば十分な評価がなされていないように見えても、長く勤め続けることを前提としているため、トータルで見れば納得感の得られる仕組みとなっています。終身雇用制度の基本的な特徴であり、過去の日本における労働環境に合った制度だったともいえるでしょう。

しかし、同じ企業に勤め続けるという前提がなければ、能力主義は従業員にとってメリットが薄い部分もあるでしょう。将来の高い賃金よりも、現在満足のいく賃金を得たいという従業員にとっては、デメリットになるところもあるといえます。

評価基準の設定が難しい

能力主義は仕事の成果だけで評価を決める仕組みではないため、基準の設定が難しいというデメリットが挙げられます。能力主義における評価基準では、業務に対する姿勢や勤勉さ、成果に至るまでのプロセスなどが対象となりますが、なかには客観的な判断が難しい要素もあるでしょう。

そのため、公正な評価基準を設定しづらく、従業員の不満が溜まってしまう場合もあるでしょう。職種や役職によっては、能力主義をベースとしつつも一部で成果主義の考えを取り入れるなどして、バランスの取れた評価を行っていくことが重要です。

評価基準を見える化するために、どのような取り組みが行えるのかもあわせて検討してみましょう。

費用が膨らむ可能性がある

能力主義は年功序列を基本とした仕組みでもあるため、将来的に人件費が膨らんでいく可能性があります。業績がよいときは問題が表面化しづらいといえますが、業績が悪くなったときに対応が難しくなる場面も出てくる恐れがあるでしょう。

そのため、能力主義の導入を検討する際は、将来的な人件費の増加を踏まえたうえで考えていく必要があります。賃金体系のすべてを能力主義の考えで評価するのではなく、成果主義のメリットなども考慮しながら、負担の軽減についても検討することが大切です。

能力主義を取り入れるポイント


能力主義を導入する際は、従業員が評価に対して不満を抱かないように、評価基準を明確にしておく必要があります。能力主義における人事考課として挙げられるのは、成績考課・情意考課(情意評価)・能力考課・業績考課です。

それぞれの評価基準におけるポイントを解説します。

成績考課

成績考課とは、主に賞与の算定などに用いられるものであり、職務の遂行能力によって判断される基準です。与えられた職務を誠実にこなし、目標を達成できたかどうかをチェックします。

ポイントとして重要なのは、職務のレベルや担当する範囲などは問題としない点です。従業員に与える職務のレベルや範囲は企業側が決めるものであるため、場合によっては従業員にどれほど能力があったとしても、ふさわしい職務を与えられないこともあるでしょう。

職務のレベルが低いからといって評価が低ければ、従業員の不満は溜まってしまいます。そのため、職務のレベルよりも職責をきちんと果たせたかどうかで判断するために、成績考課が用いられます。

情意考課(情意評価)

情意考課は、組織で働く一員としての自覚が備わっているかを判断基準として置くものであり、主に規律性・責任性・協調性・積極性などの視点から評価を行います。

規律性とは、就業規則や社内ルールなどを日ごろから遵守して、職務に取り組んでいるかを判断するものです。職責をきちんと果たそうとする責任性や、自分の職務以外のことでもチームにとってプラスとなる行動が取れていたかが判断される協調性なども、情意考課においては大事なポイントになります。

また、与えられた職務をただこなすだけでなく積極的に改善や提案に取り組めたか、自らのスキルアップを図るためにどのような行動ができたかなどを見る積極性も評価対象となります。

情意考課について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『情意考課(情意評価)とは?導入時のポイントと注意点 』)

能力考課

能力考課は職務のレベルや担当する範囲などをもとに、職能資格等級基準から能力の高さを判断するものです。能力考課における基本的な要素は、体力・修得能力・習熟能力などが挙げられます。

一口に能力といっても、実際に目に見える形で現れている顕在能力と、まだ表には現れていない潜在能力があります。職務を遂行する能力は、成果として見える部分は顕在能力として認識されますが、職務に取り組む機会が与えられていなければ、見えない能力としての潜在能力となるでしょう。

若手従業員の場合は、ベテランの従業員と比べて任せられる職務の範囲が限られてくるため、面談などを通じて潜在能力を把握したうえでキャリア支援などにつなげていく必要があります。

業績考課

業績考課は成績考課とは異なり、職務のレベルなどが考慮された評価となります。単に与えられた職責を全うするだけでなく、どのようなレベルで達成できたかが問われる部分があります。

営業職や企画職、管理職などにおいて職務の範囲が比較的自由なものである場合、成績考課と業績考課を組み合わせて評価する効果はあるといえるでしょう。従業員の職務や役職に応じて、適切な評価基準を定めていくことが大切です。

能力主義における賃金制度


能力主義を取り入れる場合は、成果主義とは異なる賃金体系を確立しておく必要があります。年齢給・年功給(勤続給)・職能給のそれぞれについて解説します。

年齢給

年齢給とは、仕事ぶりや能力とは関係なく、年齢が1歳上がるごとに賃金が加算されていく仕組みです。年齢別の平均的な賃金水準に近づけられるため、従業員の納得感を得やすくなるでしょう。

一方で、年齢の高い従業員が多い職場で年齢給を導入すると、会社の負担は大きくなりがちでもあります。従業員の平均年齢などを踏まえて、導入を検討するほうが無難です。

年功給(勤続給)

年功給は勤続給とも呼ばれ、自社で長く働き続けている従業員ほど賃金が上がっていく賃金体系です。勤続年数に判断基準を置くため、自ずと年功序列を尊重した仕組みになるといえます。

年功給を導入するメリットとしては、従業員は長く勤め続けるほどインセンティブを得られるので、離職率の低下につながる点が挙げられます。離職率の高さを改善したいと考える企業ほど大きな利点があるでしょう。

職能給

職能給は、従業員のスキルや習得した技術の質と量をもとに評価する賃金体系です。保有している能力で評価する仕組みであるため、適正な評価につながりやすいといえます。

すでに職務で用いているスキルや技術だけで判断するのではなく、今後の事業展開などを踏まえて役立つ能力を評価できるので、若手の従業員に対する評価もバランスよく行えるでしょう。

まとめ

能力主義と成果主義のどちらを導入するかは、自社の置かれている状況や業種、競合他社の動向などを踏まえたうえで、総合的に判断する必要があります。それぞれの特徴を踏まえ、自社に適した人事評価制度や賃金体系を整えることが重要だといえます。

従業員のモチベーションを維持し、生産性を向上させるには評価基準を明確にしておくことが大切です。日ごろから従業員とのコミュニケーションをしっかりと行って、納得感のある仕組みを整備してみましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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