ジェンダーハラスメントとは?具体例と対応策を解説

d’s JOURNAL編集部

「ジェンダーハラスメント」は、性別を理由とした偏見や差別、嫌がらせの総称であり、職場で起こりうる代表的なハラスメントの一つです。ジェンダーハラスメントを放置すれば、社内の従業員に被害が広がるとともに、大きな不利益が生じることもあります。

従業員が安心して働ける職場づくりを目指すためにも、企業としてはジェンダーハラスメントに関する正しい知識と予防策を知っておく必要があります。この記事では、おさえておきたいジェンダーハラスメントの基礎知識と具体例、対応策について見ていきましょう。

ジェンダーハラスメントとは


ジェンダーハラスメントとは、性別を理由にした差別や偏見のことです。ここではまず、ジェンダーハラスメントの基本的な意味や現状について見ていきましょう。

なお、性的指向や性自認に関するハラスメントには、「SOGI(ソジ・ソギ)ハラ」と呼ばれるものもあります。こちらについては、以下の記事で詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考:『SOGIハラとは?言動の具体例や組織での防止策を紹介 』)

ジェンダーハラスメントの意味

ジェンダーとは、英語で「性、性別」を表す単語です。ジェンダーハラスメントといった場合は、性別に関する個人の固定観念に基づいて行われる嫌がらせや不当な行為を指します。

性的な事柄に関連するハラスメントとしては、セクシャルハラスメントも挙げられますが、こちらは業務にかかわりのない性的な話をしたり、必要がない状況で身体的接触をしたりする行為を指します。それに対して、ジェンダーハラスメントは「男性だから○○」「女性なのに○〇」のように、性別に対する固定観念をもとに行われるものです。

そのため、セクシャルハラスメント以上に、本人の無意識によって引き起こされる可能性が高いのが特徴です。また、ジェンダーに関する思い込みが原因であるため、女性だけでなく男性も被害を受けるという側面を持っています。

日本におけるジェンダーハラスメントの状況

日本の先進国のなかでもジェンダーに対する関心が低いとされており、職場におけるジェンダーハラスメントが解消されにくい側面があります。世界経済フォーラムが2022年7月に発表した「The Global Gender Gap Report 2022 」によれば、各国の男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」について、日本の値は0.650であり、全146カ国中116位という結果が示されています。

実際のところ、日本労働組合総連合会が2021年に行った調査 では、全体の4.2%がジェンダーハラスメントを受けたことがあると回答しており、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントに次ぐ問題となっているのが現状です。

企業に与える影響

ジェンダーハラスメントが起こっている職場では、従業員が安心して働くことができず、パフォーマンスが大きく低下してしまうリスクがあります。精神的な負担が重なれば、最悪の場合は離職につながる可能性もあるでしょう。

また、ハラスメントが放置され続けると、社内全体のモラルが低下し、対外的なイメージにも悪影響を及ぼします。ハラスメントに対して適切な対処をせず、従業員の心身に影響があれば、使用者責任や安全配慮義務に反したとして企業も責任を問われる可能性があります。

そのため、組織運営においてはどのような行為がハラスメントに当たるのかを把握し、適切に対処できる仕組みを整えることが大切です。

職場におけるジェンダーハラスメントの具体的な事例


ジェンダーハラスメントとは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。ここでは職場で起こりうる代表的なハラスメント事例を5つに分けてご紹介します。

性差別的な発言

代表的なジェンダーハラスメントとして挙げられるのが、性差別的な発言です。たとえば、「男のくせに」「女のくせに」「男らしく」「女らしく」といった性別に対する固定観念に基づいた発言は、悪意の有無にかかわらずハラスメントに該当する可能性があります。

より具体的にいえば、男性従業員に対して「男なら耐えろ」のような発言を投げかけたり、女性従業員に対して「女ならもっと気を利かせろ」といった指導をしたりする行為です。この背景には、「男性は強いもの」「女性はサポートに徹するもの」という先入観が存在していると考えられます。

そのため、性差別として受け取られるリスクが大いにあるといえるでしょう。

キャリアに関する差別

キャリアに関する差別も、職場で起こりやすいジェンダーハラスメントの一つです。たとえば、女性従業員に対して「女性は産休や育休をとるから昇進できない」「女性には管理職は務まらない」といった発言をすることが当てはまります。

また、経歴や実績に大きな違いがないにもかかわらず、女性のほうが男性よりも給与水準が低く設定されている場合もジェンダーハラスメントに該当します。一方で、男性従業員に対して、「男ならもっと上を目指せ」といった発言がハラスメントになる可能性もあるので注意が必要です。

仕事の割り振りの差

業務の割り振りについても、性別による先入観が影響しやすいといえます。分かりやすい例を挙げれば、「お茶くみは女性の仕事だ」と決めつけ、女性従業員に社内の雑用を押し付ける行為が該当します。

反対に、「力仕事は男がやるもの」として男性従業員に一律で重労働を強いることもジェンダーハラスメントに当たる可能性があるので注意が必要です。そのうえで、特に注意が必要なのは、悪気がなくても受け取り方次第でハラスメントになり得る発言です。

たとえば、会議などで女性従業員に「若い女性らしい視点で意見を出して」と明言することもジェンダーに基づく発言に当てはまる可能性があるので注意しましょう。

プライベートへの干渉

プライベートに関する話題は、ジェンダーハラスメントが起こりやすいシチュエーションなので注意が必要です。たとえば、女性従業員に対して不要に結婚や出産のタイミングを尋ねたり、恋人の有無を聞いたりすることは、セクシャルハラスメントにもなり得るので注意しましょう。

また、子どもの発病などで休みを申請した男性従業員に対して、「奥さんが見てくれないのか」と尋ねることもジェンダーハラスメントに該当します。これらのリスクを避けるためには、仕事に関係のないプライベートについて干渉するのを控えるとともに、家庭における性別ごとの役割を決めつけないことが重要です。

性的マイノリティの問題

LGBTQに該当する人に対して、配慮のない発言をすることもジェンダーハラスメントに当たります。たとえば、「男/女らしくいるべき」や「彼氏/彼女はつくらないの?」のように、男女のどちらかであることを前提とした発言・嫌がらせが該当します。

また、いわゆる「カミングアウト」をきっかけに昇進・昇格を取り消したり、同性愛をネタにした冗談を言ったり、からかったりすることも重大なハラスメント行為です。そのうえで、本人の許可なく第三者にセクシュアリティを言いふらす行為は「アウティング」と呼ばれ、訴訟などのリスクに発展する可能性もあるでしょう。

ジェンダーハラスメントが引き起こす企業リスク


社内でジェンダーハラスメントが発生すれば、組織にさまざまな悪影響を及ぼします。ここでは、3つの視点で具体的なリスクを見ていきましょう。

生産性の低下

ジェンダーハラスメントは、被害を受けた従業員のモチベーション低下やメンタル不調を引き起こす可能性があります。すると、当然ながら本人の仕事に対する意欲が失われ、生産性も低下してしまいます。

また、ハラスメント行為が放置されれば、対象の従業員の離職につながる可能性もあるでしょう。さらに、ハラスメントの場面を目にした周囲の従業員も、組織に対する不信感を抱く可能性は十分にあります。

そうなれば、組織力の低下にもつながり、ますます生産性が下がってしまいます。

企業イメージの低下

SNSの普及により、個人での発信力が強まっている現代では、ジェンダーハラスメントを受けた被害者が外部へその事実を打ち明けるケースもめずらしくありません。そのうえで企業が特定されれば、自社のイメージは大幅に低下し、取引先の拡大や採用活動に支障をきたす可能性もあります。

また、SNSなどで広報を受け持つ担当者がジェンダーに関するリテラシーを持っていなければ、不用意な発言によって炎上してしまうリスクもあるでしょう。

法的責任の発生

企業が雇用を行うときには、労働契約法第5条 により、「使用者が従業員の安全に配慮する義務」(安全配慮義務)が生じます。そのため、ジェンダーハラスメントが深刻化すれば、安全配慮義務に違反したとして企業が法的責任を問われる可能性もあります。

ジェンダーハラスメントを防ぐための対応策


それでは、企業としてジェンダーハラスメントを防ぐにはどのような対策を行うべきなのでしょうか。ここでは、5つのポイントに分けて解説します。

ハラスメントへの対応方針の策定

ジェンダーハラスメントは、個人の捉え方によって重大性が異なる面もあり、形式的な号令だけではなかなか対策が進んでいかないのも確かです。そこで、企業としての方向性を示すためにも、社内におけるガイドラインを設けることが大切です。

ジェンダーハラスメントの定義や適用される範囲などを明示したうえで、実際に発生したときの報告手続きや制裁措置も記載することで、企業の取り組み姿勢をきちんとアピールできます。そのうえで、ガイドラインは研修などによって周知徹底を図るなど、形骸化しないように工夫することが大切です。

ハラスメントの実態を把握する

ジェンダーハラスメントは身体接触や暴力などをともなわないため、表面化しにくい側面があります。きちんと抑制するためには、定期的な「従業員サーベイ」を行い、ハラスメントの実態と発生リスクの把握につとめることが重要です。

従業員サーベイとは、従業員が自社に対してどのように感じているのかを総合的に調査することを指します。匿名で回答できるアンケートを配布し、ジェンダーハラスメントに関する実態を調査することで、経営層や管理職層からは見えない問題が顕在化するケースもあります。

被害を最小限にとどめるためには、早い段階でハラスメントの芽を摘み取ることが重要です。

全従業員を対象とした社内教育の実施

ジェンダーに対する考え方は、世代間によるギャップが生じやすいのも特徴です。そのため、社内としてある程度の見解を一致させるために、全従業員を対象とした教育・研修を実施することも大切です。

研修を通じてジェンダーハラスメントへの問題意識を高め、どのような行為がハラスメントに当たるのかを理解してもらうことで、社内全体のモラルを向上させられます。その結果、ハラスメント行為が少なくなるとともに、発生したときにもすぐに周囲の従業員が発見できるようになります。

相談窓口を設ける

ハラスメントによる被害の発生を防ぐためには、相談窓口を設置し、従業員が安心して打ち明けられる場所を用意することも大切です。特に、ジェンダーハラスメントはプライバシーに関する問題が関連するため、デリケートな悩みに発展しやすいのが特徴です。

相談窓口をきちんと活用してもらうためには、プライバシーの保護を徹底するというルールを明文化するとともに、利用によって相談者や関係者が不利益を受けないことを明示する必要があります。また、より深刻な事態に発展するのを防ぐためにも、産業医や弁護士、カウンセラーといった外部の専門家につなげられる仕組みを整えておくとよいでしょう。

ハラスメントが実際に起こったときの対応

ジェンダーハラスメントが発生したときには、従業員や関係者を守るためにも、適切かつ速やかに対処する必要があります。基本的には、以下の手順で対応することとなりますが、必要に応じて外部の専門機関に相談することも検討してみましょう。

1.事実関係を確認する
2.ハラスメントの有無について判断する
3.加害者に対する処分等の措置を検討する
4.調査報告書を作成する
5.被害者・加害者へのフォローを行う
6.再発防止の対策を行う

ハラスメントには必ず加害者と被害者が存在するため、双方の意見が食い違う可能性も十分に考えられます。そのため、事実関係を徹底的に確認し、すべての判断を事実に基づいて行うことが大切です。

本人へのヒアリングだけでなく、周囲への調査もしっかりと行い、客観的な事実に基づいてハラスメントの有無を判断しましょう。そのうえで、行為や被害の度合いに応じて加害者への処分など検討し、ハラスメントの事実とともに調査報告書にまとめます。

その後は被害者に対してフォローを行い、今後の対策や再発防止の方法などを説明し、安心して働き続けられるように配慮する必要があります。また、加害者に対しても必要な処分を行った後はフォローを行い、組織や業務への影響を最小限に抑えることが大切です。

双方へのフォローが済んだら、改めて調査報告書などを振り返り、ハラスメントが発生した原因を分析します。そして、再発防止策を検討するとともに、必要に応じてガイドラインの見直しも行い継続的に実施していくことが重要です。

まとめ

ジェンダーハラスメントは、「生産性の低下」や「従業員の離職」、「企業イメージの低下」といったさまざまなデメリットをもたらします。社内でハラスメントが発生したときには、速やかに事実を解明したうえで、適切な対処を行わなければなりません。

そのためにも、まずはジェンダーハラスメントに対する理解を深め、どのような行為が該当するのかをきちんと把握することが大切です。そのうえで、全従業員を対象に研修を行い、ハラスメントの判断基準や具体例などを周知徹底させましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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